<インタビュー> 取引先が語る

大二商事 岡村幸祐さん -4

DSCN0671.JPG経営者には社員や家族に見せる顔とは、また違った顔がある。取引先とのつきあいのなかで見せる顔である。「物静かな会長だったが、私とは気が合ったのか、けっこうよくしゃべってくれはったほうとちがいますか」。そう語るのは、40年来の取引関係のなかで、仕事でプライベートでよく飲んだり、ゴルフに行ったりしたという大二商事の岡村幸祐さんだ。その岡村さん(以下敬称略)に、吉田会長のプライベートな時間と顔を語っていただいた。


吉田会長との思い出 Vol.4

経営者としても凄いひと

「私も長い間、いろいろな会社を見てきましたからわかりますが、吉田会長というのは、経営者としても凄いひとでした。尊敬する経営者のひとりです」
 岡村は昭和運搬機から今日のアズワーク製作所まで、長い間、吉田会長の経営者としての手腕をつぶさに見てきた。その岡村がいう。
 「会社というものは波がある。会社といより世間のほうに波がね。会社経営はその波に合わせて縮まなければならないときと、拡大しなければならないときがある。そのとき思い切って、ブレーキをかけられるかどうかが、経営者の資質を決めますんや」
吉田会長は、それができた数少ない経営者のひとりだった、と岡村はいう。
「人間誰しも、情もあれば義理もある。いい格好したいこともある。そういうものが絡み合って人間というのは形成されているわけですからね」
 例えば、社員の人数が多いときは少なくしなければならない。しかし、むやみに人員を整理するのではない。吉田会長は首を切る前に、切らずにすむ方法を考える。トータルの賃金が高ければ、全体に低くする。社員も会長を信頼しているから納得して賃金を下げる。それでも駄目な場合は、人員整理するが、そうした合理的な判断ができるひとだったと岡村はいう。
 そういう人間というものを踏まえたうえで、数々の難所を乗り越えてきた。そういう吉田会長は凄い、とあらためて岡村は思うというのだ。


万巻の書物が人間力の源

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吉田会長の経営者の資質は、やはり多彩で豊富な読書によって磨かれたものだと岡村はいう。
「会長室をいつお訪ねしても、部屋にはいつも万巻の書がありましたからね。私らでは真似ができない、たいへんな読書家でしたよ」
 その読書のなかから、吉田会長はさまざまなことを学んだ。自分が読んで、これは社員も読むべきだと思ったら、押し付けるように「これを読め!」とすすめる。
 読書のテーマも、仕事関係、物理・数学、エッセイ、推理小説…とにかく、幅が広い。そうしたジャンルを問わない雑食性の読書が、思慮深い、人間としての度量を広さを養ったのだろう、と岡村はいう。
 スポーツも好きで、何をやらせてもうまかった。野球、スキー、アイススケート、水泳。ただ、晩年はめっきり体力も衰え、ときに歩く姿に力がなかったこともあった。
「ああ、会長も少し元気がなくなったかな、と思ったら、次に会ったときはシャキッとされてたり。そんなことの繰り返しでしたから、まだまだ大丈夫と思ってました。訃報を知らされたときはびっくりしましたね。私のほうが年上なのに」
晩年は健康管理のためにスポーツジムに通われていたが、マシンを使って身体を動かすのは面倒やからと、プールで水に浮いているだけ、サウナで汗を流すだけ、というような過ごし方だった。
酒量もめっきり減ってしまったが、ビールは水がわりだったようだ。
「わしは胃がないから、ビールで腸へ流しこまなアカンのや」とか、
「わしは胃がないから、飲酒検問にひっかかってもアルコールは検知されへんのちゃうか」といった冗談を飛ばしながら、適量を楽しまれていた。
 お互いを認め合う取引先、尊敬すべき経営者、よきライバルとしてのゴルフ仲間、そして何より、岡村にとって愛すべき友人であった。(了)