<インタビュー> 取引先が語る
大二商事 岡村幸祐さん -2
経営者には社員や家族に見せる顔とは、また違った顔がある。取引先とのつきあいのなかで見せる顔である。「物静かな会長だったが、私とは気が合ったのか、けっこうよくしゃべってくれはったほうとちがいますか」。そう語るのは、40年来の取引関係のなかで、仕事でプライベートでよく飲んだり、ゴルフに行ったりしたという大二商事の岡村幸祐さんだ。その岡村さん(以下敬称略)に、吉田会長のプライベートな時間と顔を語っていただいた。
吉田会長との思い出 Vol.2
よく北新地へ出かけた時代
会長と岡村は、どちらからともなく誘いあってよく飲みに出かけた。ふたりとも酒はめっぽう好きなほうで、岡村はいまでも365日、アルコールを切らす日はないという。
そんなふたりだったから、いったん飲みに出かけると3、4軒と「はしご」になってしまう。一軒目は岡村が払うと、二軒目は吉田会長が払う。持ちつ持たれつで、ついつい何軒もまわってしまうのだ。
「吉田会長はとにかくお酒が強かったですね。アルコールが入ると陽気になって。カラオケもよく歌いはりましたなあ」
社員のなかで、吉田会長がカラオケを歌う場面を見たものはあまりいない。現社長でさえ、会長がカラオケを歌うことなど、ついぞ見たことがなかった。そこはやはり岡村とは同年代というか、気のおけない仲であったのだろう。どんな歌を歌われていたのか、岡村も細かくは覚えていないが、マイクを向けると躊躇なく持ち歌を披露したそうだ。
いまでこそ北新地といえば、カラオケを置いている店、置かない店と分かれている。が、吉田会長と岡村が誘い合って飲みにでかけた当時は、北新地のどの店にもカラオケがあった。
カラオケ装置もあったが、流しのギター弾きやピアノ奏者がまわってきて30分ほど演奏していく。ホステスは常連客の持ち歌を知っていて、奏者にそっと曲をオーダーする。客がその伴奏にあわせて歌を歌う、そんな時代であった。古きよき昭和の北新地を思わせる。
カラオケをめぐる北新地事件
このカラオケをめぐって、ちょっとした事件があった。北新地の、吉田会長の行きつけの店でのことである。
その日も例によって、吉田会長と岡村は誘いあって新地へ繰り出した。一軒目は岡村の店、二軒目は会長の店に腰を落ち着けた。その二件目の店でのことである。
ふたりで機嫌よくカラオケを楽しんでいた。少し離れた仕切りの向こうで、同じようなグループがいた。そのグループに何か気に入らないところがあったのだろう、はっきりした原因は岡村も覚えていないが、酔った勢いもあって吉田会長がそのグループに文句をつけた。いくら酒の席のこととはいえ、ふだん温厚な吉田会長が怒り出したことに、岡村も驚いた。
しかも、相手は4、5人である。しかし会長は一歩も譲らず、向こうも引かない。言い合いは折り合いがつかず、ついに実力行使寸前までいった。そうなれば、こちらにはまったく勝ち目はない。それでも、吉田会長は折れなかった。
その場は驚いて飛んできた店のママが中に和って入り事なきを得たが、まかり間違っていれば「海老蔵」になっていたやもしれぬ。岡村はあらためて吉田会長の気骨を見た思いがしたそうだ。(続く)