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名物社員登場

原田 信一(はらだ しんいち)

その11 「アズワークきってのインケツ男。」

原田信一

 毎週、毎週、馬券を買う。そして、毎週、毎週、ハズしてしまう。まわりからは「お前、わざとはずしてるんとちゃうか」といわれるほど、当たらない。もちろん、基本は穴狙いだが、きょうは堅くいこうと思って買う。それでも、当たらないのだ。自分でもインケツ※1男と認めるほどのクジ運のなさ。年に1、2回、何かの拍子で当たればいいほうだという。

 そのインケツぶりは、誰が聞いても涙が出る。この原田もまた大の阪神ファンであるが、例えば、阪神の試合をみんなが食堂のテレビで見ているとする。ゲームは阪神が勝っている。そこに原田が入っていくと、途端に阪神が逆転される、などということは日常茶飯事だ。

 こんなこともあった。会社の仲間と甲子園に行ったときのこと。弁当をほおばりながら、観戦していた。打席に入ったのが、四番金本。そのとき、よりによって金本がホームランを打ったのである。原田はあまりのうれしさに、弁当を持っていることを忘れ、バンザイ! と諸手をあげてしまったのである。それでどうなったか。もちろんのこと、あたり一面にご飯とおかずの花火が打ちあがってしまったのである。火の粉をかぶった観客は、もうカンカンだ。しまったとばかりに原田は会社の仲間たちの間でシュルシュルシュルッ、ぽっと線香花火よろしく小さくなってしまった。みんなが知らん顔をしてくれたからよかったが。

 しかし、インケツの神様といえどもまったく馬券を当てたことがない、というわけではない。いままで当てた最高額は、配当7000円(オッズ※2 70)だ。原田は大の松田優作のファンである。その年は、松田優作が亡くなった年だった。だからよく覚えているという。本命はメジロマックイーンだったが、ダイユウサクという無印の馬がいて、原田は1着ダイユーサク、2着メジロマックイーンで3000円をぶち込んだ。それがなんと、キターッのである。3000円×70で合計21万円。あまりに可哀想な原田を松田優作が天国から勝たせてくれたのである。

 そんなインケツ男の原田であるが、負けても負けても、くじけないところはエライ! ムキになって3000円以上つぎ込んだりしないところである。「夢は大穴、100万円」。それが男のロマンだ、といい放ついっぽう、「俺はアズワークのインケツ男」ときちんと自分を認めてもいる。ここまで開き直られると、そのうちインケツの神様も根負けして、原田に万馬券をプレゼントしてくれるのではないだろうか。

※1.インケツ=賭博用語。花札で最低の手札になることを指す。そこから転じて最低・最悪の状態を意味し、貧乏神や疫病神のような人物を指すときにも使われる。
※2.オッズ=馬券(単価/100円)に対する払い戻し倍率のこと