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福川 健太(ふくがわ けんた)
その7 「入社初日から重役出勤したシルバーマン。」
「福川さん、きょうから入社と聞いてるんですが、まだ出社されないということは、うちには入社しないということでしょうか」。そんな電話がアズワークの業務から、福川の自宅にかかってきたのは、初出勤予定の当日、午前10時を過ぎた頃のことだった。面食らったのは、福川のほうである。もちろん、その日が初出勤の日であることは承知していた。しかし、面接後、合否についてはあらためて連絡するといわれていたまま、何の連絡もなく、福川は不合格だったんだと、あきらめていたのである。その当日もこれから他の仕事を探しに出かけようか、と思っていた矢先に電話がかかってきたのだった。
何のことはない。面接段階から会長は採用を決めていたのだが、その旨を業務に伝えただけで、「あらためてこちらから連絡する」といったことを会長自身が忘れてしまっていたのである。あわてたのは福川である。大急ぎで着替えて初出社におよんだのだが、時はすでに昼をまわってしまっていた。
それが、いまから3年前のことである。以来、福川は「入社初日から重役出勤してきた男」と呼ばれるようになった。
生まれは九州の福岡だが、親の転勤とともに学生時代を大阪で過ごし、北海道の大学で商学部に学んだ。卒業後、大阪へ戻ってきたが、アズワークに落ち着くまでにもいくつかの仕事を経験している。しかし、いずれも営業職で、どうも自分は営業には向いていないと感じていた。現場系の仕事がしたい。それが、アズワークの面接を受けた理由だった。
趣味はシルバーコレクションだという。銀を集めるのが趣味で、結婚するまではヒマさえあれば、ミナミにある行きつけのシルバー専門ショップを覗いた。気に入ったシルバーアクセサリーを買いあさっていたという。最近はふたり目の子どもが生まれ、銀を集めるよりも子どもたちと遊んでいるほうが楽しいという子煩悩ぶりだ。彼の耳にはいつも銀のピアスがはめられている。そのうち、彼のふたりの息子たちも、父親の耳にはまっている銀のピアスに興味を持ち始めるのだろう。
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