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こんなもんつくったでえ 1st その1

その1 360度、車輪がまわる農耕機。

農耕機

 車輪が360度回ったとして、何の意味があるのだろうか。方向を変えるだけなら、90度回れば十分である。それ以上回っても、車体が回転するだけだ。そんな奇妙な農耕車のオーダーが、TCMさんを通じて三重農大の教授からあった。

 基本設計図は、TCMさんからいただいた。しかしこういう特注品というものは、つくりながらあちこちの不具合を現場作業で修正していかなければならない。全体を見て、図面の意図するところを改良していかなければならないのである。設計の人も毎晩遅くまで作業につきあってくれて、その二人三脚でようやく完成した。車輪も前輪を360度回るようにしたのか、それが後輪だったか、いまとなっては確かではないが、シャフトを組むことができないので、独立懸架方式をとったと思う。そのため、配管とブレーキシステムが非常にむずかしかった。

 大きさはそう、軽トラックぐらいのものだった。車輪を回転させるのにチェーンを使ったか、ギアを使ったかも定かではない。とにかく「できません」とはいいたくなかった。シャーシーから部品(一部、外注したものもあったが)まで、すべてオリジナルパーツによる組立であった。

 もう40年近く前のことだ。教授が、何をもって360度回る車輪を必要としたのかはわからなかった。聞くところによると、「とにかくつくってみたいから」というものだったと思う。不思議なオーダーではあったが、作業に取り掛かり始めると、そこはやはり職人気質というか職人スピリットというか。毎晩遅くまで作業したにもかかわらず、それが少しも苦にならなくて、むしろ面白い作業であった。