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田中 光一 (定年退職)
その1 鉄道模型の世界に、この人あり。
昔からものづくりが好きだったという田中。職場を離れると、鉄道模型の世界ではちょっとした有名人である。なにしろ、大阪交通博物館に展示されている鉄道模型製作にも、関わったというのだから。
彼が鉄道模型づくりを始めたのは、20代の頃からだった。イメージスケッチを自分で描き、それに基づいて縮尺の図面を起こす。鉄道車両以外は、すべて手作りだ。部品のひとつひとつを、丹念に製作し、組み立てる。仕事がらお手のものではあるが、技術だけでは鉄道模型をすべて手づくりすることはできない。それだけの手間と暇もかかわる。好きでなければできない世界ではある。
オーダーは、大手百貨店から直接くる。その先の買い手に関してはまったく面識はない。売ったあとも、誰が買ったのか、まったくわからない。仕事としているわけではなく、あくまで趣味の世界だ。従って、オーダーがあってもそれをこなすだけの時間がない。それでも、鉄道模型が好きな人たちの間では、田中の名前はほとんどの人が知っているという。狭い世界だからと田中はいうが、それだけ製作した模型の精度が高い証拠ともいえる。阪神大震災で、阪神競馬場で展示しているミニチュア鉄道が被害にあったとき、その修理を依頼されたこともあった。
材料費だけでも数十万円もかかるが、完成品はその何倍ものの値がつく。材料費を差し引いた利益を、オーダーのあった百貨店やホビーメーカーと折半ということになる。確かに、それなりの金額にはなるようだが、それを仕事にしようというつもりはない。
もうひとつ、田中には好きな世界がある。写真である。写真のほうも、若いときから手を染めていて、こちらの腕前もなかなかのものである。鉄道模型で得た収入は、ほとんどカメラの購入や写真を撮るために費やされる。鉄道模型をコツコツ製作するのも、好きな写真の費用を捻出するためでもある。
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